「お帰り"    "…私達の愛しい娘」






ハピネス
4.5話
旋律のは鳴り止まず












崖の間から鉛色の空が覗き、ぽつぽつとフォルテ星に雨が降る。
一人の女性が傘も刺さずに公園を歩いていた。
フォルテ星人特有のサイドテールに、ウエーブのかかった肩までの髪。
少し幼さの残る上品な顔立ちが、この女性の家柄のよさを表していた。










「アマービレ!」






そこに一人のフォルテ星人の男性が走ってきた。
足元はびしょびしょで、息を切らし、今まで彼女を探していたのが伺える。










「傘も差さないで…君は体が弱いんだから、体を壊したらどうするんだ。」
「ごめんなさい、ハイムリヒさん。でも雨なんて久しぶりだし…」




アマービレは反省する様子もなく、少し微笑んで答えた。
ハイムリヒはアマービレを傘の中に入れ、彼女に自分の着ていた上着を着せた。






「お願いだからムチャをしないでくれ…。」
「誰かが呼んでる気がしたの」
「誰かが?」
「ええ…わたしはここだよ、早く見つけて、って…」



もちろん、アマービレはふざけてなんていなかった。
雨は雨足を弱め、鉛色の空は少しずつ群青を取り戻している。




「わかった…私も探そう」
「信じてくれるのね!?」
「君の目を見たら信じるしかないじゃないか」






アマービレの目はまっすぐで、ハイムリヒにはとても嘘をついているとは思えなかった。
しばらく2人で、アマービレを呼ぶ声の主を探していると、
草陰から、オギャア、オギャア!という赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
2人は驚き、急いで声の主の元へ向かった。









「棄てられたのかしら…」
「可哀想に…」




そこには、赤ん坊がいた。
赤ん坊はまるで自己主張するかのように力一杯泣いていた。
ハイムリヒは急いで赤ん坊を抱き上げた。
すると、赤ん坊はピタリと泣き止んだのだ。

2人は顔を見合わせると、微笑んで言った。


「この子は棄てられたんじゃない、神様からの贈り物だよ」
「ええ…。本当に」



アマービレは子供が産めない体だった。
一度は赤ん坊を授かったのだが、顔を見ることなく、死んでしまったのだ。














「どうしてかしら、
 私…あの子が姿を変えて私達の元に戻って来てくれた気がするの…」
「神様はあの子を私達の元に返して下さったんだ」
「帰ってきてくれて…ありがとう……本当に…ありがとう」







いつの間にか空は雲をどかし、群青を取り戻していた。
崖の切れ目から虹が顔を出し、まるでアマービレ達を祝福しているかのようだった。










「お帰りアレルト…私達の愛しい娘」






ハイムリヒの腕の中で、アレルトが笑った。









top